ルルドで聖水を鯨飲
(聖母マリアのヒーラー・ポータル・第2章)
サント・ボーム最寄りのマルセイユ空港からルルドの空港までは、地図上ではそんなに遠い感じはしなかったのですが、直行便というものが存在しないのか、なぜかわざわざパリ経由となり、結構長旅になりました。土砂降りのマルセイユ空港ではいきなり飛行機の遅延があり、パリでの乗り継ぎがそんなに時間がなかったはずでしたので、ちょっとヤキモキしながら、クロワッサンを食べてました。ま、でもなんとか間に合って乗り継ぎ、はるばる到着した夕刻のルルド空港。11月末でオフシーズンであったこともあり人も超まばらで、小さな空港の建物を出たところにある小さなターミナルには、そもそもタクシー乗り場みたいな場所がありませんでした。家族が迎えにきたそれなりに幸せな人たちが順番に消え失せた後は、夕闇の中、僕一人きりになり、他に車一つない小さなターミナルにポツンと佇んでいました。
「えっ。タクシーって、まさか電話で呼ばないと来ないとか?でも、フランス語とか話せないんだけど。あじゃぱ、まじで超ピンチ!」
体の調子が相変わらずボロボロでしたので、困り果てながらも即行動に移す気力も体力もなく、しばらくなんかボケーっと、スーツケースと共に暗闇に立ちすくみ、色々な考えが頭の中を開脚前転していました。
「あ、でも、もしかしたら、ルルドの街って、ここから歩いていけるのかも。でも、歩き始めて、実は何キロもあるよ〜んとかなったら、却って面倒だよね。こういうところって、夜は街灯ひとつない真っ暗闇になりそうだし。じゃあ、空港の窓口に戻って誰かに訊いてみようかな。あ、でももう誰も空港にいなさそう。それに、フランス語話せんのんよ〜。どうすっぺ〜。」
出口のない迷路で彷徨うかのようにグルグル考えが空回りしていると、やがて、車のヘッドライトが遠くからやってくるのに気がつきました。結構近くまできて、よく目を凝らして見ると上になんかタクシーの印みたいのが見え、ホッと胸を撫で下ろしました。
幸い、この若いタクシードライバーさんは英語が話せるようで、訊くと「今オフシーズンだから観光客は疎なんだけど、到着便の時間は全部把握しているから、もしかして誰かいたりして、と思って空港に立ち寄ってみたんだよね。」だそうで、つくづく僕には救いの神でした。
そんなこんなで真っ暗な田舎町を走行し到着したルルドのホテルは、ま、特に筆記することもないごく普通のドヨヨーンとしたホテルでした。そもそもルルドにあるホテルはどれも普通っぽい感じで、いわゆるリゾートホテルみたいのは存在しないんですよね。
チェックイン時に「夕食はルームサービスとかやってます?」と訊くと、「いや今はオフシーズンなのでやっていないっすよ。」と言われ、「じゃあ、あそこのレストランみたいな空間は?」と尋ねると、「あ、あそこは火曜日と週末の限られた時間だけ空いているんですよ。ですので、今日は思いっきり閉まっていますね。」だそうです。仕方なく、外に出てしばらく探索すると、ま、店という店は閉まっていて、大通りは静かでドヨーンとしていて、寂しい夜の空気が空腹の胃に染み入りました。結局、唯一開いていたケバブみたいのを売ってる通りの向こうのデリで、油でギトギトのフライドポテトとハンバーガーを頼みました。結構お腹が空いていたので、もう「なんでも来い」でした。
翌日は、まだ暗いうちに起床して、まだ車も通っていない薄暗く物静かな大通りを抜けて、ルルドのサンクチュアリーに向かって歩き出しました。
道に迷うかな、と思いきや、通りをいくつか抜けると、あっという間に目の前にルルドのサンクチュアリーの敷地が見えてきました。中央の建物がシンデレラ城みたいな造りなので、なんか「御伽の国ランド」って感じでした。右と左にぐる〜っと囲むように大きく回って上る階段があり、中央にロザリオ大聖堂の入り口が見えてきました。
ちょうど開館時間だったみたいで、到着して数分もしないうちに中に入れました。中には、いろいろなセクションがあり、ちょっと軽く歩いて回りましたが、ま、観光目的できたわけではないので、すぐに長椅子に腰掛け、祈るようなふりをしながら瞑想を始めました。すでにキンキン音が響いていて、イェシュアと聖母マリアがイニシエーションを開始してくれたのは明らかでした。
これは、この旅の随所に共通することなのですが、ここも例に漏れず、とにかく寒いんですよ。幾つにも重ね着したので、上半身はそれほどでもなかったのですが、冷たく居心地の悪い木製の長椅子に腰かけた下半身はジーンズ一枚なのでスースーと寒く、足先もあっという間に冷たく痺れてきました。そんな寒さに加えて、体の調子が例によって超ボロボロでしたので、瞑想するといいながらも、意識は完全にどこかに飛んでいました。ほぼ仮死状態で合計6時間ぐらい佇んでいました。
「ルルドといえば聖水」ということもあり、瞑想を終えて少し敷地内を歩き回った後は、開いていた最寄のお土産屋でミニサイズのポリタンクやガラスの小瓶を買って、聖水をもらいに行ってみました。小瓶は友人へのお土産で、ミニポリタンクは僕用です。なんか湧き出るおしゃれな泉みたいのがあるのかなと想像していましたら、整然と蛇口が並んでいて、「ここから聖水を持っていてください」みたいな看板があって、ちょっと驚きでした。
やがて夕刻となり、聖水のボトルやミニポリタンクが詰まった鞄を引っ提げてホテルに戻りました。驚くほどに「オフシーズン」で、店という店が閉まっていて、歩く観光客はほとんどいず、通りは本当に死んだように静かなんですよ。
部屋に戻り、その夜は、ミニポリタンクに入った聖水を一気に飲み干しました。飲んだらなんか少しだけ元気が出てきました。
「こんだけ聖水を飲んだら、明日には身体が超元気になっているかもね〜!」
上機嫌で、眠りにつきました。
はたして、翌日、目覚めると、身体はそれまでと全く同じくらいに重だるくて、逆に驚きました。
「あれっ、聖水の効果って、時間かかるのかな?」
そんな謎かけを解く間もなく、ホテルをチェックアウトして空港に向かいました。タクシーの中では、シートに普通に腰掛けていても身体がどうしようもなくだるくて、といって横になんかなったら「気分が悪いの?」とか訊かれてしまうので、できるだけ平静を装っていました。
さあ、次は、最終目的地、スペインのモンセラートです。